島であっても東京である離島伊豆大島は、政治や宗教的な理由で追放された流刑地として歴史が長い。配流は死罪の次に重く、伊豆は遠流にあたるので島流しのなかでも極刑だ。
伊豆大島の一番有名な流刑者は、役小角ではないだろうか。修験道の開祖として有名な8世紀の人物だ。役小角が有名になり信者が増加、朝廷の権威を脅かす存在とみなされる。謀反の疑いをかけられ、ここ伊豆大島へ流された。昼間は洞窟で過ごし、夜は孔雀明王の呪法を用いて遠く離れた本州の富士山まで飛んでいったという。 ちなみにこの役小角は有名なホラー小説『リング』にも登場し、貞子の母志津子に霊能力を与えたとされている。
今でこそジェット船で東京から2時間弱で来れる大島ではあるが、昔は酷く遠い場所であった。墓場の一角を埋め尽くす、宗教弾圧最大の標的、不受布施派の流僧が眠る墓石群がその辛い過去を訴えている。墓碑には1691年の一斉検挙の次ぎの年「元禄5年」の日付もあった。遠地でたった一年で亡くなるなんて、どんな思いで死んでいったのだろう。 苦痛と無念が墓碑からにじみでているようである。普通に苔むした墓碑と、蛞蝓でも這いまわったかのように醜く溶けた墓碑。その光景は霊感なんぞがなくても簡単にわかるぐらい異常である。
役小角、不受布施派の僧、源為朝、赤穂義士などが流された伊豆大島。黒い溶岩の流痕が島を檻のように囲んでいる。
三原山: 自殺の名所
伊豆大島にある三原山は、活発な活火山だ。 100年または200年毎に合計百回前後の大噴火が起きているといわれている。 地元住民からは"御神火"と慕われ、神としてあがめられてきた。だがこの御神火が吹き出す三原山、実は昭和初期から10代、20代の自殺名所であったのだ。車だとうっかりすっ飛ばしてしまいそうな道の中腹に看板が立っており、そこから徒歩で少し登ったところに仏群がある。第二次世界大戦までに三千人もの若者が投身自殺を図ったので、その供養と死に急ぐことなく生きることの大切さを教戒しているのだという。中には煮えたぎる火口へ身投げる者すらいたらしい。

三原山の山頂に、三原神社が祀られている。シンプルな神社ではあるが、その鳥居はいわくつき。明治、大正、昭和の噴火で溶岩が火口から流れ出たが、溶岩流はなぜか直前で両側へ流れが変化、大噴火であったにもかかわらず残ったそうだ。
三原山は「おはち巡りコース」という名で火口を一周することができる。筆者もこの日おはち巡りをしたが、あいにくの濃い霧であった。上空は明るく、霧も猛スピードで移動しているのでそのうち晴れるだろうと思っていたが、その予想は見事にはずれ真っ白に。視界は前方、横ともに2メートル弱になっていた。

転んだら一巻の終わり
人間の脳はいい加減なものであり、円を描くコースであるはずなのに四方の視界が悪いので道がどこまでも真っ直ぐに伸びているように感じてしまう。突然ビュン!と下から突き上げるように強い風が吹いた。待てよ、ここで転んだら一巻の終わりではないか?その瞬間、火口側の真っ白な空間からゴォー!自殺者のことが頭を過り、背中がゾーッ。その数分後平地にでたのだが、前方の白い空間に神社の鳥居が、ぽっかりと浮いていた(ようにみえた)。
少し下れば至極普通のハイキングコース風景であるのが不思議である。異界の入り口、東京都伊豆大島。また訪れてみたい島である。
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