日本の新挨拶「忙しい?」は社会的ブービートラップ

そんな中、7 年間東京で生計を立てている筆者は、都民に広く使われている忌まわしい挨拶があることに気が付いた。その言葉こそ、「忙しい?」である。
経済の中心地として、絶え間なく変化する大都市であることを考えれば、都民があくせく仕事に勤しむのは仕方のないことだ。 だが、単に忙しくしているのではない。むしろ、その多忙さにどっぷり浸りながら、忙しい身の上を楽しんでいるのだ!
現状の「忙しさ」は、個人の成功や将来的なビジネスの土台となるものなのである。
つまり、「忙しい?」に対するパーフェクトな返答は、多忙を極める成功者であるという印象を与えつつ、将来共に仕事をしたい(楽しみたい?)と思っている相手に質問の余地を残すところにある。 では、「忙しい」に対するパーフェクトな返答とは?
筆者は、「忙しい?」という挨拶を受ける度に、様々な返答を重ねてきた。「信じられないくらいすっごく忙しいの!もうホントに!すごーく忙しいんだから!とにかく死にそうなのよ!」 。こんな時、筆者の自然な笑顔は、心にもない大げさなことを言うばかりに作り笑顔へと変わっている。
すると、「まぁ!きっと良くやっているのね!その調子でがんばってね!」 という、前向きな発言が返ってきた。
とは言え、あまりに忙しさを強調し過ぎると、相手に交渉の余地すらない印象を与えてしまう。

すると、「ええ、大丈夫なの?!仕事が上手くいっていないの?あまり考え込まないでね。何かあったらいつでも声をかけてね。」というお決まりのフレーズが返ってきてしまった。そのため、この発言はお勧めできない。
そこで、今度はどちらにも取れるニュートラルな返答を返してみた。 「忙しいけど、豆乳ラテみたいに万事上手く言っているわ。」
この発言には、相手も非常に困ってしまうようだ。複雑な笑みを浮かべながら、「あ、そうなの。それじゃあ良かったわね・・・」 という返事が返ってきた
とにかく筆者が学んだことと言えば、どうせ言うなら極端な方が良いと言うこと。 「寝る暇も食べる暇もないくらいとにかく忙しいの!」ぐらいが丁度良い。
東京の忙しい生活にすっかり溶け込んでしまった筆者は、週末や夜、さらにはバケーションに関わらず、そのペースを崩すことができなくなってしまった。
日本語の Twitter でも同様に、以前はあまりツイートしなかった筆者が、その日一日の馬鹿げた(同時に素晴らしい)たくさんの意見と共に、ファッションコメントやインタビュー、展示会、記事に関する更新などありとあらゆることを次々にツイートするようになっている。
すると、「すごく忙しいのね!素晴らしい成果を収めているのね!」といったメッセージが返ってくるのだ。まさにパーフェクトなフレーズを見つけたと言えるのかもしれない。 みんな聞いて!私、忙しいの!
ただし驚きだったのは、重要なクライアントから、「仕事のことでお話したいのですが、Twitter で見る限りお忙しそうなので、あまりお邪魔したくはありません。少し、落ち着いた時にでも時間を頂ければ。」という E メールを受信箱に見つけたときである。
ああ!失敗!
筆者は未だに多忙ながらも余裕のあるバランスの取れたフレーズを探している。 「忙しい?」と訊かれたらは、当面のところ、ヨダレを垂らし、一点を見つめるゾンビのよう姿になりそうだ。もちろん、成功者として多忙さを極めたゾンビである。






