パンダ1匹の価値は人間10人分
パンダ散策は標高1700メートルの金波村から、2500メートル以上へと登る。途中、標高によりさまざまな変化がみられる。囚われの身となったジャイアントパンダを見ることができる動物園は世界に20ヶ所ほどある。 しかし「檻にいるものを見てなにが面白いの?」と訊かれると言葉に詰まる。
動物愛護者なら、草坡自然特別保護区に生息するパンダを自然のままの姿で見にいくのもいいだろう。中国四川省にある、良く知られた臥龍自然保護区から山一つ越えた場所だ。

しかし、5年前にパンダにばったり出くわした 64歳の農夫、Hu Guo Wenさんは、パンダから攻撃されたのでやり返したという。 そう、パンダはふわふわしていて愛らしいが、身の危険を感じると獰猛にもなるらしい。

金波村の村人は、足跡や糞、食べかけ竹といったパンダの形跡はよく見かけるというが、襲われたことがあるのはHuさんだけだ。
その時、尾根で漢方の草を採っていたHu さん。近くでカサカサという音を聞き目をやると、136キロのパンダが現れた。 彼は山を駆け下りようとしたが、パンダは追いかけてきて彼の脚を強打したらしい。
彼はパンダを押しのけ、すんでのところで逃げおおせたと言う。その時履いていたズボンを今でも勲章のように大切にしており、旅行者に熱心にこの話をしたがる。

その後 Huさんは村人を集め、この愛すべき乱暴者を狩る狩猟隊をつくったのではないかと考えそうだが、実はそうではないらしい。 熊などの動物が人を襲った場合、人間を守るためにその動物を殺すのが普通だが、ここでは違うのだ。
「ありえませんな。パンダを殺したら大ごとになります」
と、Huさんは言う。 「ここの役人たちは、パンダ1匹は村人10人の価値があると言っています。過去30年でパンダに2回ほど会っていますが、ご対面はあれを最後にして欲しいです。とても怖いですから」

私たちは、多くの村々と標高2000メートル以上の場所にある牧草地を通り抜け、美しい山へと登った。言うまでもないことだが、これらの地域ではパンダを見かけなかったばかりか、その痕跡さえ見つからなかった。

村へ戻ると、外国人がパンダを密漁していると郡の警察に電話があったことが判明。私たちがホームステイしているので、羨んだ村人がかけたものらしい。
警察は、私たちが日帰りハイキングをしている間に金波村を訪れていた。しかし私たちを泊めている家主は、私たちはパンダ貿易はやっていないと保証したため、警察は何もせずに帰ったという。

草坡郡はチベットと羌という少数民族から構成されているが、彼らは有機野菜と肉を自給自足し、また美しい刺繍製品も生産している。

これこそ牧歌的生活の真髄といえよう。

畑で働く合間を縫って家事をし、刺繍をする。金波村の家族は客のために料理し、伝統の歌を歌い、踊る。中国各地で見られるインチキ「文化村」とは大違いだ。
本当に素朴な中国の村を目にし、地域の生活を垣間見ることができた。ここのパンダも動物園のそれとは異なるのだ。





