洪水と共に暮らすバンコク住民の声
今バンコクにいれば、洪水被害に遭う可能性が高い。
しかしこの場合の「洪水被害」とは、必ずしも水に浸かることだけではない。市の大半はまだ浸水していないのだ。むしろ、スーパーでお気に入りのビールを見つけられないとか、お目当てのイベントがキャンセルになってしまう、といった被害の方が多い。誰もお祝い気分ではないので仕方ないのかもしれないが。
もちろん酷い目にあっている人もいる。 家を離れ、市の中心部にアパートを借りた人もいれば、客足が途絶えたので店を閉めた者もいる。
洪水被害にあった9人の住民に話を聞いた。それぞれ様々なドラマがあるが、共通点もある。 不確定要素を抱えながらも生活していくために戦うことが、新たな「日常」になったということだ。

名前: ウオン
年齢: 30歳
職業:国立博物館の近くでバナナやサツマイモなどのフライチップを売る屋台の店主
洪水の影響: 「いつもの場所で売ることができません。洪水で大学が休校になり、お客さんがいないんです」と嘆くウォンさん。
「仕方なく、Sanghee橋の近くに移動しましたが、そこでもあまり売れません。ここなら人がいると思って来たのですが、皆、いなくなってしまった様子。材料費も高くつくようになってきました。 バナナの価格があがっているんです」

名前:スダラート
年齢: 70歳
職業: プラナコーン近くのショップオーナー
洪水の影響:いまのところ、私の店の状況はよくはないね」と肩を落としているのは70歳のスダラートさん。「ペットボトルの水は2週間前から在庫切れさ。 トラック輸送も難しいから、最近はあまり売るものも無いし、 こうなってから既に数週間が経過している。需要が高く品切れしているものは、タバコ、アルコール、ビール、ソーダ、米と沢山あるね。
初めて洪水警報を聞いたときは怖くなったさ。 すべてを移動させる作業を手伝い、入り口には水を遮るための壁を作った。でも今では、洪水も来るなら来て、さっさと終わりにしてほしいと思っているよ。 どこにも行くことができないんだ。水が来たら対処できるよう、ここで待機しているからね。でも洪水はまだ来ていない。 見動きがつかないんだ。」

名前: シス 19歳、メーン 24歳
職業: チャランサニットウォン通りにある靴工場の作業員
洪水の影響: 「洪水の間しばらく工場は閉鎖となりました」と言うのは、ムクダーハーン県の北東部から仕事を探してバンコクにやってきたシスさんだ。 「上司は給料は払えないけど、ただで工場で寝泊まりしていいって言うんです。 でも、食事は自腹。 鶏肉や豚肉の価格はいつもと変わりませんが、野菜は高騰しています」
一方、ローイエットからバンコクへやってきたメーンさんは「私たちはもう3週間も仕事がありません。1カ月に6000バーツしか稼げないんです。」とこぼす。 「食べるために釣りをしている始末ですよ。この橋までくるのに普段は10分しかかかりませんが、今では、洪水の中を歩いて来るので1時間半も費やしています」

名前: チュアン
年齢: 52歳
職業: トンブリーのリバーサイドホテル近くで商業20年以上のラーメン店
洪水の影響: 「水が最初にやってきたとき、1週間ほど店を閉めたの。今日は再開初日なんですよ」とチュアンさんは言う。 「このあたりはみんな避難してしまったので、お客さんはほとんどいません。 だけどお金が底をついてしまったので、今日は何がどうでも開店せざるを得なくなってしまいました。たとえ水の中で働くことになってもね。 野菜や卵の値段が高くなり、最近では入手も困難になってきています。家は床上150センチまで浸水しているので、セブンイレブンの上に部屋を借りました。
洪水が最初に押し寄せてきたとき、ボートに乗った人たちがやってきて、ほんの少しの距離だけで50バーツもふっかけられました。このあたりでは、誰も見たことのない顔なんですよ。 彼らは洪水とともに移動し、みなが慌てて逃げ出すタイミングをみはからっているんですね。酷い話です」

名前: ジム
年齢: 51歳
職業: カオサン通り沿いに20年来婦人服店主
洪水の影響: 「ピンクラオに住んでいます。私の家は浸水したけど、お金が必要だから仕事のためここまで来なくてはならない」とジムさんは話す。「普段は1日20着ぐらい売れるのですが、 最近では1日、せいぜい1着か2着。 私のお客さんはほとんどが観光客なのですが、最近、ここらあたりはタイ人ばかりでね。 カオサン通りのゲストハウスでさえ、浸水した家から避難してきたタイ人だらけです。
前からこのハイシーズンを楽しみにしていたのですが、洪水ニュースのおかげで、観光客は怖がってしまいよりつきません。 たまにはもののわかった人もいて、自国で洪水を経験した人などはそのまま旅行に来てくれるんですけどね。 他の人はみな、旅行をキャンセルしてしまうか、タイの他の地域にいってしまうんですよ」

名前: チュウ
年齢: 47歳
職業: スクムウィット通りで働くビジネスコンサルタント
洪水の影響:「私はスクムウィット通りに住んでいるので引っ越しを余儀なくされたのですが、オフィスは大変なことになっています。」とチュウさんは言う。 「家が浸水したため出社できなくなったスタッフもいます。できる人には家で仕事をしてもらっています。 仕事はもちろん低調です。
私の仕事は、バンコクから地理的に遠い顧客に代わって現地調査を行うことですが、なかなかはかどりません。現地が浸水していない場合も、そこまでいくのが大変なのです。
個人的には、両親の家が浸水したので家族が心配です。 週末には実家に戻って手伝わなくてはなりません」

名前: ニック
年齢: 28歳
職業: レンタカー会社従業員
洪水の影響: 「サートーン通りにある私たちのオフィスでには洪水していません。 それでもいろいろな問題があります。
レンタルした車を水の中で乗り捨てていったお客さんがいるのです。 また、車は保険でカバーされますが、今問題なのは、修理する人がいない、ということなんですね。 自動車工場は浸水しているので、部品の入手も至難の業です。
私はモノレールで通勤しているので、すべて通常運行なのですが、週末は自分の家からでることが難しくなっていて家でカンヅメ状態。クロンサンに住んでいますが、すべての方向から水がやってくるので、イライラします。ただじっとして、日々水が流れてくるのに任せるしかないのです。食べ物の値段も高くなり、最近では売っている店さえも見つけることが難しくなってきました」

名前: サイ、18歳(写真左)
職業: ラーチャモンコン大学の学生
洪水の影響: 「今日は大学の始業式だったの」とサイさん。 「本当は数週間前の予定だったけれど、もし洪水が来たらまた閉校になってしまう。
私の家のまわりも浸水しはじめたので、学校に行くのも楽ではないわ。 バイクタクシー、タクシーもいないので、普段よりたくさん歩かなくてはならないし。帰り道では、『あの地域は浸水しているから』と乗車拒否するタクシーもあるのよ。 これ以上ひどくなったら、従妹とトンブリーに引っ越そうと考えているわ。
でも両親はまだ家を離れたくないみたい。 バンコクに住む若者共通の悩みでしょうね。 両親に荷物を置いて逃げるよう説得するのは並大抵のことではないのよ」

名前: プンヤポーン
年齢: 非公開
職業:バンコクDusit工科専門学校教師
洪水の影響:「家はバーンケー区のため、通勤が大変ですが、あまり気にしていません。 アパートに住んでいますが、1階は床上50センチほど浸水しています。道に出れ水深は1メートルほどです。
ですから通勤はショートパンツを穿いてでかけ、仕事場についてから着替えなくてはなりません。 ブーツもかかせません。学校からは、必要があれば学校に寝泊まりして良いといわれていますが、娘と一緒に住んでいるので、そうしようとは考えていません」




